学校紹介

浜松学芸高等学校 校長挨拶

あたたかい言葉を語りかけることが、
主体性を育む教育の第一歩です。

浜松学芸高等学校 校長
内藤 純一

枠に収めず、生徒たちと一緒に授業を創っていく。

内藤校長が「愛語(あたたかく心のこもった語りかけ)」を大切にしている理由を教えてください。
学校というのは、生徒だけでなく教師も含めて「人」が育つ場所です。そういう場所で何よりも大切なのは、あたたかい言葉ではないかと思っています。
実は、愛語を意識し始めた背景には、過去の自分への反省の気持ちもあります。私が20代や30代の頃は生徒を管理する旧来型の学校教育が一般的で、そうでないと学校がまわっていかないような時代でした。その中で私自身も、管理的な立場で生徒に関わっていたと思います。
でも、本当にそれで良いかと言えば、そんなわけはありません。本来は、生徒一人ひとりが精神的に落ち着いた雰囲気の中で、何の心配もなく学校生活に打ち込めることが必要です。そのためには、学校内で交わされる言葉やお互いに目を通す文章などの中に愛情があることが、すごく大切だと思います。
愛語を意識することで、どのようなコミュニケーションが生まれますか?
愛語の第一歩になるのが、普段の「声かけ」です。たとえば教員と接する場面であれば、「今日のシャツはいい色だね」とか、何気ない言葉をかけるだけでコミュニケーションを取りやすい雰囲気が生まれます。相手が話しやすいように、まずこちらから声をかけるということです。
生徒に対しても同様で、こちらから挨拶することによって初めて接点が生まれます。自分に対して親近感を持ってもらえれば、困った時に相談に来てくれるかもしれないし、勉強のことで質問に来てくれるかもしれません。私は廊下で生徒とすれ違う時は、極力声をかけるようにしています。
今の時代背景をふまえて特に必要な教育とはどのようなものですか?
世の中の変化が本当に速いので、アンテナを高く立てて変化に対応することが必要だと思います。一般に、学校の中というのはガラパゴス化しやすい場所です。生徒を上から管理するような旧来型の教育では、教師のスキルや経験値の中だけですべてが完結してしまいます。その結果、生徒が本来持っている伸びしろを止めしまうおそれがあります。
それを避けるためには、教師自身が「今の世の中はこうやって動いている」ということを意識しなくてはなりません。教材に書かれていることだけを教えるのではなく、「この教材で学んだことは、実はこういうことにつながるんだよ」「こういう背景があるんだよ」という視点を持って生徒と関わる。旧来型の「教え込む教育」をやめて、「生徒たちと一緒に授業を創っていく」ということが重要だと思います。

教師が発する言葉には、重い責任が伴う。

浜松学芸高校は2021年4月に科学創造コースが誕生し、6コース体制になりました。それぞれのコース の中で個性的な学びに取り組む意義を教えてください。
まず、今の社会では時代の要請として主体的な人が求められています。私は、主体的な人には個性があると思っています。自分の強みや個性を自覚できるからこそ、主体的になれるということです。
そのような主体的な姿勢を育み、毎日の授業を通して自分の持ち味を自覚するのが、本校の学びです。芸術科の3コースや普通科の地域創造コース、科学創造コースと同様に、普通科の特進コースにも自分の強みを磨くための時間があっても良いと考え、2022年度から3年次のカリキュラムに「課題追究」という時間を設けました。課題追究とは自学自習の時間で、自分で立てた計画に基づいて学習を進めます。各自の進路につながる学びを充実させるために取り入れました。
主体的に学ぶことがなぜ必要なのかを教えてください。
ずっと受け身の姿勢のまま学生時代を過ごしていると、社会に出る時の第一歩が受け身になります。これからの時代、ますます日本の人口が減っていく中で、企業の中でも一人ひとりの役割が当然大きくなっていきます。それにもかかわらず、組織の中に指示待ちの人がいたら、仕事が回らないですよね。主体性を持った人が集まって、お互いに関わり合うからこそ、初めて新しいものが生まれたり、今まであったものを改善できたりします。だからこそ、学生時代に主体的に学ぶことが必要だと思っています。
生徒の主体性を重視する教育を進めてきた結果として、どのような手応えを感じていますか?
本校生徒の保護者の方の声を人づてに聞くことがありますが、「うちの子が学校生活を楽しいと言っている」という声を聞くとうれしく思います。管理的な指導スタイルからの変化を進めてきた結果が、そうした反応につながっていると思います。
先ほどの「愛語」の話にもつながりますが、18歳までの子どもは1日の中の多くの時間を学校で過ごします。生徒たちが学校で接する大人は、ほとんどが教師です。だから、生徒たちに対する教師の責任はとても大きなものだと思います。教師自身が作ったフレームの中に収めるような言葉を発するのと、自由闊達な活動を促すような言葉を発するのでは、大きな違いがあります。教師の発する言葉とはとても重いもので、私たちは常にそのことを意識する必要があります。

この学校を、思う存分活用してほしい。

内藤校長が生徒と関わる中で喜びを感じるのはどのような場面ですか?
自分自身の中学・高校時代を振り返ると、通っていた学校の校長に話しかけたことは一度もありません。おそらく、多くの人がそうだと思います。でも本校では、生徒が私と話すために校長室に来てくれることがあります。そういう時はうれしいですね。
たとえば探究活動でeスポーツに取り組んでいる生徒が、eスポーツの大会を開こうと考えて、勇気を振り絞って校長室まで企画書を持ってきてくれたことがありました。あの時も本当にうれしく思いました。生徒が主体的に行動する姿を見ると、応援したい気持ちになります。
他の例として、本校の制服は2020年度から女子用スラックスを選択できるようにしましたが、そのきっかけも生徒たちとの会話です。校長室の掃除に来てくれた女子生徒たちに「最近何か思っていることはある?」と聞いた時、「スカートだと自転車を漕ぐ時に大変です」という意見を聞かせてくれました。それをヒントに制服の検討を始め、パンツスーツの導入に至りました。
普段のあいさつや何気ない会話がきっかけとなって、「今度校長先生に会ったらこんなことを話してみよう」と思ってくれることもあると思います。点がだんだん線になり、面になっていくと、できることの質・量が上がっていくと思います。
最後に、これから入学する人たちに伝えたいとはありますか?
私たち教師が生徒を「育てる」というよりも、ここで過ごすことによって生徒が「育つ」学校でありたいと思います。そのために私が伝えたいのは、「学校を積極的に活用してほしい」ということです。学校は万能ではなく、学校にできることには限りがありますが、それでも活用できるものはたくさんあります。私たち教師やこの学校で行われる授業、備えられている設備など、学校のリソースを思う存分活用してほしいと思います。

※掲載情報は取材時(2022年3月)のものです。