高校教育

芸術科 美術 コース

美術コースの学び
コネクテッド・インク2022

■「コネクテッド・インク2022」

2021年に引き続き、㈱ワコムが主催する「コネクテッド・インク2022」に参加しました。このイベントは、さまざまな電子機器を開発するワコムが「アート、学び、それらを支える新しいテクノロジーなどを推進し、さまざまな問いから創造性の未来を模索するイベント」として毎年開催しているものです。参加した生徒たちは、コロナ禍や戦争などさまざまな社会的困難に直面する中で、「私たちにとって本当に大切なものは何か」という問いをたて制作に取り組みました。そして、個人的に作った作品や参加者全員で作った動画を、東京会場と本校をオンラインで結び会場で上映しました。

仲間と協力して何度も
撮り直し、撮影を成功
させることができました。
永田 乙羽/油絵専攻
(袋井市立袋井南中出身)
――「コネクテッド・インク2022」でどんなことを担当しましたか?
全体の考え方をまとめて形にし、それを実現するための指示を出す役割を担いました。世界では今、悲しい出来事がたくさん起きています。その中で私たちが何をして何を伝えるべきか、そして世界は何を求めているのかを考え、高校生という立場なりの答えを見つけていきました。今自分が生きていることも、学校に通えることも、ご飯を食べられることも、すべてが当たり前ではないと改めて考えるきっかけになりました。
――準備段階の課題を乗り越えるために、どんな努力や工夫をしましたか?
参加したメンバーの意見に広く耳を傾けることを意識しました。また、そこからみんなが納得できるような形に変えるにはどうするべきかを考え、まとめるための場を共有しました。そうした意識が作品づくりに良い影響を与えたと思っています。
――取り組み通してどんな手応えを感じましたか?また、どんな力が身につきましたか?
作成した映像の中に、人が歩くシーンがあるのですが、足と同じ位置、同じスピードでカメラを動かす必要があり、とても苦労しました。仲間と協力しながら何度も撮り直し、撮影に成功した時の達成感はすごかったです!
今回のこの活動は、初めて1年生と2年生がコラボした活動です。そのため最初は先輩としてどう関わればいいか分からなかったのですが、積極的に後輩に話しかけ、意見を言いやすい雰囲気づくりを意識しました。それによって全体の距離が縮まったように感じます。この積極性を今後の取り組みにも活かしていきたいと思います。
――他にはどんな形で地域と関わっていますか?
地域の商店街やギャラリースペース、病院などに絵画を展示したり、地域の魅力を映像にする映像ワークショップを行ったりと、いろんな取り組みがあります。どの取り組みでも地域との関わりを大切にし、積極的に活動しています。
――所属する専攻ではどんなことに力を入れていますか?
私は油絵専攻に所属し、自分が好きと感じられる芸術とは何か、それを形にするためにどんな技術が必要なのかを考え、探究心を持って制作しています。油絵専攻は、一人ひとりができることの自由度が高く、幅広い方法で自分を表現できるので、課題を通して新たな発見に出会うことができます。
――改めて、美術コースにはどんな魅力があると思いますか?
どの専攻にも知識・経験が豊富な先生がいて、多様な意見を聞けることが魅力です。生徒一人ひとりに丁寧に指導してくださるので、距離がとても近いと思います。また、ともに芸術を学ぶ仲間が身近にいる環境は、とても刺激になります。お互いの個性を認め、尊敬し合える関係の中で、芸術を深く勉強できます。
――美術コースでの学びの成果を活かして実現したい目標を教えてください。
ものを見る力や、芸術に対する考え方、表現の仕方など、さまざまな点で入学時とは比べものにならないほど成長していると思います。美術コースでの経験を活かして今後も成長し、「自分は今こんな素敵なことをしているんだ」と毎日胸を張って言える人間になりたいと思います。そして、私が作る芸術で誰かを幸せにすることが、将来の夢です。

2022年度 受賞作品

《第70回静岡県高等学校美術・工芸展》
・静岡県高等学校文化連盟会長賞 内藤 夢香「逆さまの空が見えた」
(2023かごしま総文に静岡県代表として出品予定)

充実した制作期間を過ごし、
やり遂げた達成感があります。

作品の大きさや重さ、時間という制限がある中で、どこまで自分の理想とする形に近づけられるかが、自分との勝負でした。計画的に制作を進める中で行き詰まる場面もありましたが、先生方や先輩、仲間からアドバイスをもらい、古い鉄棒の作り方や腕の付け方などを工夫して表現することができました。
完成作品については、自分の目から見て未熟さを感じる部分はありますが、制作期間はとても充実したものになり、やり遂げたという達成感があります。一緒に悩み、背中を押してくれた人たちが自分をここまで連れてきてくれたことに、感謝したいと思います。

内藤 夢香/彫刻専攻
(磐田市立南部中出身)

《令和4年度静岡県読書感想画コンクール》
・指定の部【最優秀作品】
静岡県教育委員会教育長賞
(中央コンクール応募作品)
蜂須賀 千幸「写し出した世界」

《令和4年度静岡県読書感想画コンクール》
・自由の部【最優秀作品】
静岡県教育委員会教育長賞
(中央コンクール応募作品)
倉田 彩「自己否定」

これまでの実績紹介

【2022年度 主な受賞歴・課外活動】
《第23回高校生国際美術展 美術の部》
  • ・秀作賞 木田 藍留
  • ・奨励賞 青栁 里奈 石川 菜摘 酒井 そよか 彦坂 瑠奈 平川 沙耶花 松下 香蓮
《第70回静岡県高等学校美術・工芸展》
  • ・静岡県高等学校文化連盟会長賞 内藤 夢香(2023かごしま総文に静岡県代表として出品予定)
  • ・静岡県高等学校文化連盟優秀賞 福田 実奈 中谷 龍
  • ・静岡県高等学校美術・工芸教育研究会優良賞 杉浦 ゆり彩 正岡 青 本多 彩奈 志村 茉美
  • ・特選 栗田 若葉 齋藤 小雪
《令和4年度静岡県読書感想画コンクール》
  • ・指定の部【最優秀作品】静岡県教育委員会教育長賞(中央コンクール応募作品)
    蜂須賀 千幸
  • ・自由の部【最優秀作品】静岡県教育委員会教育長賞(中央コンクール応募作品)
    倉田 彩
  • ・指定の部【優秀作品】一般社団法人静岡県出版文化会理事長賞(中央コンクール応募作品)
    新井 友菜
  • ・自由の部【優秀作品】一般社団法人静岡県出版文化会理事長賞(中央コンクール応募作品)
    大村 優美香
  • ・指定の部【優良作品】毎日新聞社及び静岡県高等学校図書館研究会長賞
    川合 麻凛 福田 実奈
  • ・自由の部【優良作品】毎日新聞社及び静岡県高等学校図書館研究会長賞
    甲子 明日音 嶋野 瑚子 志村 茉美 高島 小羅泰 石野 ひなの 佐奈 和奏 鈴木 綾乃 森 一美
  • ・指定の部【奨励作品】静岡県高等学校図書館研究会長賞
    鈴木 玲凪 内藤 夢香
  • ・自由の部【奨励作品】静岡県高等学校図書館研究会長賞
    鈴木 春香 諸星 杏実
《令和4年度浜松市第70回市展》
  • ・奨励賞 松下 香蓮
  • ・入選 青栁 里奈 宇野 南帆 大川 真奈美 佐野 水咲 大曽根 志保 牧田 晏奈 内藤 夢香

■在校生の声 vol.1

「自分の世界」を
再現できた瞬間は、
言葉で表せないほどの
感動があります。
中谷 龍/デザイン専攻
(浜松市立曳馬中出身)
――美術コースに入学した理由を教えてください。
高校入学前から夢があり、その夢を実現するためには、デザインなど美術の技術が必要だと知りました。「それなら美術コースがある学校に行こう」と思い、学芸に入学しました。
――美術コースの学びにはどんな特長がありますか?
1年次は油絵やデザインなど、各分野を順番に学び、どの分野が自分に合っているかを知ることができます。そうして選んだ自分の専門分野を深めるのが、2年次からの学びです。自分自身を深く知るとともに、常に新しい自分に向かって成長できる環境があります。とても充実した環境で学んでいる実感があります。
――先生方の指導について印象に残っていることを教えてください。
どの先生もアドバイスが的確で、生徒に分かりやすく教えてくださいます。アドバイスをもとに自分の制作をより良いものにすることができます。
美術コースの先生方は、生徒の気持ちをくみ取って指導してくださる方ばかりです。作品のことや進路のことなど、不安に思っていることを何でも相談できます。
――美術コースのイベントについてはどんなことを感じますか?
毎年夏休み期間に静岡県高等学校総合文化祭美術・工芸部門の「西部支部展」に出展する作品を制作します。この時は、自分が主体となって好きなものを作ることができます。僕はこの時に改めて、作品を作る楽しさを感じました。作品とはある意味、「自分の世界」の再現でもあるように感じます。そうして再現した自分自身の世界は自分の目にも輝いて見え、何よりも完成した作品を見た時は、達成感という言葉では言い表せないくらいの感動が押し寄せてきます。
――美術コースでどんな力が身につきましたか?
その力を活かしてどんな目標を実現したいですか?
空間の意識や配色などのデザインスキルが身についたほか、映像作品を作る中で、映像編集が上達したと感じています。また、クラスメイトや先生方との関わりを通して、対人スキルや人間力が磨かれたと思います。
こうした能力を活かし、人々を笑顔にできる人間になることが将来の目標です。芸術とは「心の豊かさ」を生むものであり、人が生きていく上で不可欠なものだと思います。そういう大切なものを提供し、人々を笑顔にできるようなクリエーターになりたいです。

■先輩の声 vol.1

冨田 楓さん (株)フジテレビジョン
  • ■2014年度卒業
  • 筑波大学芸術専門学群
    日本画コース卒業
  • 筑波大学大学院人間総合科学研究科
    芸術専攻
    日本画コース修了

コンセプトの大切さを学んだ経験が、
デザインの仕事に役立っています。

――学業面で、高校時代に特に力を入れたのはどのようなことですか?
高校に入学した頃はデッサンも作品もどう描いていいのか分かりませんでしたが、クラスメイトの作品を見て「自分よりも絵が上手い人がこんなにたくさんいるんだ」と衝撃を受けました。
がむしゃらに描いてもこの人達には勝てないと思い、美大や藝大の合格作品や画集をたくさん見て、どのようにモチーフや物事を捉えているのかをインプットするようにしました。国宝や重要文化財から日本美術院展覧会(院展)などの公募展まで、実際に多くの作品を見ることで自分の表現の引き出しが増えたと感じています。高校2年の時には、画家の千住博さんの作品と言葉に心を打たれ、いかにして彼の思想や表現を自分に落とし込めるかを考えるようになりました。
また、大学受験では美術以外の教科も必要不可欠で、授業で学んだ内容を手帳にまとめてずっと持ち歩いていました。自転車での通学時間も無駄にしたくなかったので、赤信号で止まったときに手帳を見て、次の赤信号までに暗記していました。赤信号以外手帳が見られないのがもったいなくて片道7キロを90分かけて歩いて手帳を見ていた時期もあります。でも、この勉強法は何度か試してやめました(笑)。
――高校生活全体を振り返って思い出に残っていることを教えてください。
夏休み、冬休み、春休みも同級生とアトリエに集まって制作を進めていました。お昼にそれぞれコンビニで買ってきた食材を組み合わせて食べていた時間が本当に楽しかったです。(サバ缶とパイナップルが意外と合いました。)
また、大学受験のために作成したポートフォリオを提出した翌日、疲労で高熱を出してしまったことも記憶に残っています。次の日の体育祭にどうしても出たくて、先生の反対を押し切りクラス対抗リレーの決勝だけ出場しました。ゴールテープを切ってみんなで優勝を分かち合ったのは良い思い出です。代償として体調の回復が長引いて2〜3日学校を休んでしまいましたが・・・・・・。
――卒業生の方の目から見た浜松学芸高校の魅力をご紹介ください。
実際に美大・藝大受験や作品制作を経験してきた先生方から専門的に指導を受けられるという環境はとても恵まれていると思います。公募展に出品する機会があったのも自分にとっては非常に良い経験でした。大学に受かるためのデッサンスキルを身につけるだけでなく、アーティストとして表現するための基礎を養うことができました。
そうして過ごした高校時代の3年間、クラスメイトと衝突したことは一度もなかったと思います。クラスメイト全員が美術・書道の表現を探究しているからなのか、自分以外の人が好きなものを否定することはありませんでした。お互いに干渉しないような関係性で、心地よい雰囲気でした。
――現在のお仕事の内容を教えてください。どのようなやりがい、手応えを感じていますか?
テレビ番組などスタジオセットのデザインをしています。ドラマやコントなど日常的な空間からバラエティ、情報・報道番組などの抽象的な空間まで、さまざまな世界観を作り出す仕事です。高校から大学院まで日本画を専攻していた身としては、立体的にしていく感覚が未知で新しく知ることばかりです。表現者として、平面という枠組みを越えた新しい表現方法を得ていると感じています。見た目のクオリティはもちろんですが、材質やコスト面、扱いやすさなど考えるべきことが多く、まだまだ勉強中です。
――高校時代に学んだことが、現在の仕事にどのような形で役立っていますか?
コンセプトを明確に決めることは、現在の仕事においても改めて大事だと感じています。
私は、高校時代の作品制作でコンセプトを大切にしてきました。コンセプトを決めると「モチーフにこれを取り入れよう」「そうしたらこういう色合いにしよう」「この技法が効果的かも」と自然に制作内容が具体性を帯びていきます。
私の仕事も同じで、デザインを考える時にまず理想のイメージを明確に決めて、その理想に近づくために形を決めたり壁紙や色合いを選んだりするとスムーズです。コンセプトという言葉は、「目標」と捉えることもできると思います。理想的な目標をいかにして達成するかを考える習慣が、大学受験や作品制作を通して身についたのだと思います。

■先輩の声 vol.2

遠藤 美香さん 版画家
  • ■2003年度卒業
  • 日本大学芸術学部美術学科版画専攻
    2007年度卒業
  • 愛知県立芸術大学大学院美術研究科
    油画・版画領域2009年度修了

展覧会をした時、高校時代の先生や友人と
再会できることに喜びを感じます。

――高校時代の美術コースでの学びを振り返って特に力を入れたことはどのようなことですか?
高校に入学する前は、絵は一人で描くものでした。浜松学芸高校で美術を嗜好する多くの同級生たちと制作をして、作業の進め方を改善することができました。
――高校生活全体を振り返って思い出に残っていることを教えてください。
担任の先生が言われた「制服は鎧」という言葉が印象に残っています。「制服はあなたたちを尊ばれる存在であると周囲に認識させあなたたちを守っている」。卒業して制服を脱いだ時、社会で生きていくための苦痛、不合理が現前しました。先生の言葉が想起され、「制服は鎧」を実感しました。
――卒業生の方の目から見た浜松学芸高校の魅力をご紹介ください。
多様な専門学科があることです。私は教育実習で美術造形科(現:美術コース)を担当しました。文化祭で行うファッションショーでは音楽専攻(現:音楽コース)が音響を担当し、美術造形科の他に普通科の生徒をモデルに起用していました。そうして生徒たちの多様な個性を活かした取り組みができるのは、学芸の魅力だと思います。
――版画家としての制作や作家活動に関して具体的に教えてください。また、どのようなやりがいや手ごたえを感じていますか?
絵を描くことは、私の生活において特別なことではありません。好きでやってきたことを勉強してきました。それを続けているだけです。展覧会をしたときに先生や友人と再会できることが喜びであり、やりがいでもあります。
――高校時代に学んだことが、現在の仕事にどのような形で役立っていますか?
私の担任の先生は他の先生に比べると生活面での指導が厳しい方でした。高校を卒業し、新しい環境で生活が始まった時、新たに出会った人と円滑な関係を築くためには、最低限の礼儀作法が必要であると実感しました。そんな時、ことあるごとに蘇ってきたのが先生の指導です。「当時は実感できなかったけれど振り返れば私のことを厳しく育ててくれた恩人だ」という話を聞くことがありますが、私もこの先生に対して同じように感じています。