教師インタビュー

音楽とは、
人生をかけて勉強する価値のあるものです。

音楽コース 鈴木 彰久 教諭
音楽コース 服部 千春 教諭

学芸の生徒は何でも吸収する力を持っている。

鈴木先生が浜松学芸高校の教員になったのはいつですか?

鈴木: 2019年からです。その前に2017年、2018年の2年間、本校の定期演奏会でオペラの指揮をしまして、それが専任教員になるきっかけになりました。

服部: 鈴木先生は、本校の卒業生なんです。高校時代の専門はトロンボーンだったのですが、大学に入ってから指揮の勉強を始めたという経緯があります。 

鈴木: 高校時代はトロンボーンが専門だったのですが、途中から八重歯が伸びてきてマウスピースに当たって痛みを感じるようになったんです。大学受験の前に八重歯を抜くこともできたのですが、演奏に影響が出てしまう可能性もある。それで迷い、大学はトロンボーンではなく教育科に入学しました。そこから指揮を学び始めた理由は、音大でいろんな人や音楽と触れる中で「自分の手で音楽をコントロールしたい」と思うようになったからです。大学卒業後は就職活動をせず、「音楽をやる」と決めて最初はアルバイトをしながら指揮を続けました。そこから少しずつ指揮の仕事をもらえるようになって、オペラを中心にオーケストラや合唱の指揮をしてきました。

学芸の専任教員になろうと思ったのはどうしてですか?

鈴木: 当時、東京の高校からも専任のお話をいただいていたんです。その中で最終的に学芸の教員になることを決めた理由は、生徒の質が良いと思ったからです。ここにはプロの音楽家をめざす人を含め、音楽を専門的に学ぶ生徒が集まっています。自分が今までやってきたことをきちんと教えられる環境だと思いました。

服部: 私は、鈴木先生が当時、「生徒たちの目の輝きが違う」と言っていたことが印象的でした。

鈴木: はい。そう感じました。牧野正人先生(浜松学芸高校出身で日本のオペラ界を代表するバリトン歌手)が本校の定期演奏会のオペラの演出をされていますが、その牧野先生も同じことをおっしゃっていました。本校の生徒たちはすごく素直で何でも吸収する力があります。「自分の目標を実現していこう」という純粋な姿勢があると感じます。

演奏会の際などに特に指導していることはありますか?

鈴木: 私がよく言っているのは、「お客様に対して失礼な演奏をしてはいけない」ということです。お客様は時間をかけて会場まで来てくださり、大事な時間を割いて舞台を見てくださいます。そういう方たちに喜んでいただけるよう、プロの現場では命がけで準備をして舞台に上がります。高校生であってもそうした姿勢を知っておくべきだと思うので、練習の時から伝えるようにしています。

生徒は最初からそうした姿勢を理解していましたか?

鈴木: 正直、最初に指揮をした2017年の定期演奏会の練習の時は、「お客様に喜んでいただく」という意識が薄いと感じました。そこで本番の1か月半くらい前にちょっと生徒たちを叱って、次の練習までに改善するよう伝えました。そうしたら、次に私が来た時は練習態度がガラッと変わっていましたね。「どういう準備をしたらいいか」を考えて、自分たちで意識を変えたのだと思います。

言語を超え、音楽によって人と人が心を通わせる。

現役の指揮者としても活躍されている鈴木先生に、
「指揮」についてお聞きします。指揮の醍醐味とはどのようなものですか?

鈴木: 指揮の醍醐味は、「自分の思い描く音楽を作れる」ということですね。もちろんそれは簡単ではなく、ほとんど思い通りにはならないんですよ。でも、だからこそ納得いくものができた時は大きな喜びがあります。音楽というのは言語を超えたものです。英語、ドイツ語、日本語しかできない人が集まったとしても、同じルールを覚えれば一緒に演奏でき、心を通わせることができます。たとえばホルンのソロが終わった場面で、指揮者の私が「良いソロだな」と思って「良かった」という合図をする。それだけで心が通じるんです。言葉がなくても多くの人と調和できるのは、音楽の世界ならではですね。指揮者というのはその旗振り役ですから、それは面白いですよ。ただ、指揮者の仕事には大変なこともいっぱいあります。プロのオペラ歌手に対して指揮を行った時などは70人くらいの前で、「何がやりたいの?お前」「その指揮じゃ意味が分からないんだけど」みたいな感じで、全員からつるし上げをくらうこともあります。

服部: ベテランがそろったプレーヤーが相手だと、新人の指揮者の言うことを聞いてくれなかったりするんですよね。

鈴木: そうなんです。だから本当に厳しいし怖い。でも、仮に自分の伝えた内容に甘い部分があったとしても、「僕はこれがやりたいんです!」と熱意を込めて伝えると、いつしか「そこまで言うならやってやるか。しょうがないな」と思ってくれるようになるんです。

ものすごい世界ですね。「人を動かす仕事」という感じがします。

鈴木: カッコよく言えばそうですね。その厳しさも喜びも、指揮者にならなければ分からなかったことです。

服部: 鈴木先生はとにかく情熱的で、生徒に対しても熱い心で接しています。でも、私は高校時代から知っているのですが、当時はおとなしい印象の生徒でした。だから、指揮者になった後に久しぶりに会って、変化の大きさに驚いたんです。今は指揮をしている時だけでなく、授業をする時も、廊下で生徒と雑談をしている時もとにかく情熱的で、熱く生徒と接しています。

鈴木: 雑談中も熱いですか?(笑)自分では気づいていませんでした。そうだとしたら、やはり指揮者の仕事を経験する中でそうなっていったのだと思います。

「調和する心」を持った人になってほしい。

音楽コースに入学する人たちの中には、早いうちから音楽という専門分野を決めることに不安を持つ人もいると思います。そういう人たちにメッセージをお願いします。

鈴木: まず伝えたいのは、音楽というのは人生をかけて勉強する価値のあるものだということです。一つのものを掘り下げていくと、違うジャンルの人たち――たとえば美術の世界でも料理の世界でも、自分の技術を提供して人に喜んでもらうような仕事をしている人たちと、話が通じるんです。ジャンルが違っても、不思議なことに「この人はこういう意味のことを言っているんだ」と理解できるようになっています。これは本当にすばらしいことで、私の場合は音楽を学んだからこそそれだけ成長できたと思いますし、人生をかけて音楽を勉強してきて良かったと思っています。

服部: 仮に将来、音楽の専門家にならないとしても、高校時代に一生懸命何かに取り組んだ経験は、どこに行っても役立ちます。たとえば普段のレッスン一つを取っても、生徒たちは緊張しながら臨み、強い熱量を持って本気で取り組みます。必死にやらないといけない環境があり、その中で3年間を過ごすと、「自分はこれだけ必死にやれたんだ」と自信がつくと思います。一生の宝物になる経験、財産になるものを作るのが私たちの仕事だと思っています。

鈴木: 本校の音楽コースを卒業した生徒は、本当に達成感があると思います。特にそれを感じるのは、定期演奏会の最後の合唱が終わった時です。特に3年生の生徒はほとんどの生徒が感極まって泣いています。

服部: その場面は毎年本当に素晴らしくて、私たちも教師冥利に尽きる瞬間です。

鈴木: そうですね。本当に一生懸命にやらないと、あそこまで感動はできないですからね。

服部: 純粋な心を持った高校生という年代だからこそ味わえる感動かもしれないですね。一番多感な時期に素晴らしい経験をさせてあげられる、良い環境だと思います。

音楽コースで学ぶ生徒たちに、将来どんな人になってほしいと思いますか?

鈴木: 調和する力を持った、いろんな面でバランスの取れた人になってほしいと思います。生徒たちにはよく言うのですが、音楽というのは「音の調和」なんです。和音、たとえば「ド」と「ミ」と「ソ」の音を押すと、99.9%の人が心地よさを感じます。普段はなかなか気づかないんですが、私たちの身の回りにはたくさんの音楽があり、その多くがこうした西洋音楽のルールのもとで作られています。音楽を通して生徒たちは、学校生活や社会人生活を送る上で必要な、「調和」を学んでいるということです。人に対する接し方や言葉のかけ方など、すべてにつながるものを学んでいます。何より、人の演奏を聴いて「上手だな」と感じたり、先生の演奏を聴いて「素晴らしい」と感動したりする機会が、他の高校生よりも圧倒的に多い。普段から自分のまわりで、常に美しい音が鳴っているんですから。調和を感じる感性を磨く上で、とても良い環境だと思います。自分の健康を保ち、自分自身が調和した状態であり、周りの人たちと調和できること。そして自分の鳴らす音楽が調和したものであること。そういうことを生徒たちに期待しながら、指導しています。