教師インタビュー

挑戦して壁にぶつかって、考える。
失敗し工夫を繰り返してほしいと思います。

科学創造コース/理科 細谷 賢行 教諭

学校の外に出て、多様な価値観に触れてほしい。

細谷先生は、探究活動の「情報・PC」の顧問をされていますが、活動を始めた経緯を教えてください。

これからの時代はプログラミングが重要なスキルのひとつになる思い、探究活動の中でやってみようと思いました。始めてみて分かったのは、生徒たちがプログラミング以外のことにも才能を発揮するということです。自分たちで動画を編集したり、絵を描いたりする様子を見て、「パソコンを使っていろんなことをする」ということに将来性を感じました。その頃にちょうど「科学創造コースを新設する」という話になったのです。自分たちでいろんなことを探究できるコースにすれば、生徒の力を伸ばしていけるんじゃないかと思いました。

探究活動の中で、生徒の主体的な姿勢に可能性を感じたのですね。

そうですね。探究活動に取り組む生徒の中には、初めから自分のやりたいことがはっきりしている生徒もいて、そういう生徒は自分でどんどん進んでいきます。そして、それ以外の生徒がやる気を出すのは、周囲から影響を受けた時です。友だちがパソコンを使って何かをしている姿を見て、「こんなことができるんだ!」と分かると、「自分はこういうことをやってみよう」と考えるようになります。やはり、人に影響を与えるのは人ですね。同年代の子から受ける影響というのは、教師が「これをやりなさい」などと言うよりはるかに大きなものがあります。

2021年4月に、STEAM(科学・技術・工学・芸術・数学)教育を基幹とする科学創造コースがスタートします。
生徒はSTEAMの各分野を選択していくのですか?

「STEAMの5分野から一つを選んでください」ということではなく、全部を学びます。特に1年次はいろんな分野を一通り学び、そこで得た知識を活かして2年次以降に自分のテーマを決めていきます。科学創造コースの特徴の一つは、既存の教科の枠にとらわれない学びです。教科の枠を超えて幅広く情報を集めたり、それをまとめていったりします。また、学校の外に出て学ぶ機会を設けていることも特徴です。大学主催のプログラムに参加したり、地域の企業の方の話を聞いたりする中で、いろんな人の考え方や価値観に触れてほしいと思っています。

どういう目的意識や将来像を持った人に科学創造コースに入ってほしいですか?

自分でいろいろ考えて物を作ったり研究したりするのが好きな人。そして、人と協働して何かを作ることが好きな人。また、5教科に直結しない分野でやりたいことがある人にも来てほしいです。「ゲームプログラマーになりたい」と思っていても、教科の内容とは直結しないですよね。そういう風に希望の進路が見つかっている人は、ぜひ科学創造コースを選んでほしいと思います。もちろん、数学や理科が好きな人も、このコースに合っていると思います。

創造や共感など、「AIにできないこと」が重要になる。

ちなみに細谷先生は、学生時代にどんなことに興味を持っていたのですか?

私の大学時代の専門分野は化学です。理学部化学科というところで「イオン定性分析」の方法について研究していました。簡単に言うと、新しい化学実験の方法を開発するための研究です。水の中にはいろんなイオンが溶けていますが、何のイオンが溶けているかを見つけるためには特殊な液体を水に入れて、色の変化を見る必要があります。これは高校の化学の実験にも採用されている方法ですが、一つ大きな問題があって、実験の際に廃液がものすごく出るんですね。実験後にイオンが溶けた液体を川に流したら公害になるので、廃液の処理が日本中の教育現場で問題になっています。そこで、もっと小さいスケールで色の変化を確認できるような新しい方法を開発できれば、環境にやさしい化学実験ができるのでは、と考えたのです。教育現場の課題を解決することをめざして研究しました。

科学の進化に関連して教えてください。科学が進化していろいろなことができるようになると、
人間の役割はどう変わってくるのでしょうか。

「AIがさらに進化していくと、人間の仕事が奪われるのではないか?」といった話を聞くことがありますよね。確かに、人間がやっている仕事の中で機械的にできるものはどんどんAIが担っていくと思います。ただ、AIというのはあくまでいろんな学習データを与えて、最適解を見つけるというものです。ゼロからイチを生み出すことや、何かを自分で創造することはできません。また、人に共感したり人の気持ちに寄り添ったりすることもできません。だからこれからの時代の人間は、創造や共感といった能力を伸ばしていくことや人間性を追求していくことが、より重要になっていくと思います。 技術者の仕事も同様です。ある製品を小型化するとして、そのために必要な計算やパーツの設計などはAIが自動で行うかもしれませんが、小型化しようと「思う」ことは、AIにはできないことです。スマートフォンが生まれる前の時代、スマートフォンがなくても私たちは特に不自由なく生きていましたよね。でも、スマートフォンを作ろうと「思う」人がいたからこそ、劇的に世の中が変わった。そうした時代の橋渡しは、人間だからできることです。「将来の人間にとってどういう良い影響があるのか」という視点を持ち、人のためになることを考えることが重要になると思います。

「創造する力や共感する力がより重要になる」というのは、科学創造コースの教育にもつながる話ですよね?

そうですね。単に科学を学んで知識を身につけるのではなく、リテラシー(知識を活用して問題を解決する力)やコンピテンシー(人と自分にベストな関係をもたらそうとする力)を育むための学びが重要で、科学創造コースでもそれをめざしています。だからこそ、既存の教科学習で得た知識を主体的に活用していくためにさまざまな活動を行うのです。自分からどんどん挑戦していってくれる人、「失敗から学ぶ力」がある人が、このコースに合っていると思います。

既存の枠にとらわれない人に来てほしい。

なぜ失敗から学ぶことが重要なのでしょうか。
失敗の大切さについて教えてください。

歴史を振り返ってみると、失敗から生まれたものはたくさんあります。たとえば、「ポスト・イット」という付箋紙。あれはアメリカのスリーエムという会社の商品ですが、最初は強力な接着剤を作ろうと思っていたのに失敗して、「よくつくけど簡単に剥がれてしまう」という変な接着剤ができてしまったそうです。でもその変な特性に可能性を感じて用途開発をしたことによって、結果的には自由に貼ったりはがしたりできる画期的な付箋紙が生まれた。そんな開発ストーリーを聞いたことがあります。だから、失敗かどうかは後になってみないと分からないことなんです。これから新しいものを作るのに、最初から「何が正解か」なんて分からないですよね。それなのに、小学校や中学校で学ぶことは正解が決まっていることばかりで、「正解以外はすべて失敗」だと教わります。そういう時代がこれまで続いてきました。でも、今の中高生が社会に出る頃は、大きく時代が変わると思います。言うなれば、すべてが正解になり得る時代です。正解か失敗かで分けられない形で、ただ「結果」というものが存在する。大切なのは、その結果をどのように活かして正解に近づけるか、ということです。何事においても「自分の考えが間違っているかもしれない」などと言って立ち止まらず、まずやってみることを大事にしてほしいと思います。

科学創造コースがそういう学びの場になっていくと思うと楽しみですね。生徒に対してどんなことを期待しますか?

失敗ということはないので、とにかくいろんなものに挑戦して壁にぶつかったら工夫して、また挑戦してぶつかって、ということを繰り返してほしいと思います。既存の枠にまったくとらわれない、変わった発想をする人が来てくれたらうれしく思います。そういう人が多分、このまちやこの国の未来を変えてくれると思うんです。これから科学創造コースが始まるわけですが、何年も経った後でなければ、「このコースを作って良かった」と言えるような結果は出ないと思います。私たちが今やれることは、最高の教育をめざしてチャレンジを続けることだけだと思っています。

※掲載情報は、取材時(2021年2月)のものです。