教師インタビュー

書道は、現代的な世界観を表現する壁面芸術。
その“カッコ良さ”を知ってほしいと思います。

書道コース 増田 与久 教諭

「ものを見る力」や「感じる力」を身につける。

書道コースはどのような特徴のあるコースですか?

書道に一生懸命に取り組んでいく中で自らを成長させ、自分の進路を切り拓いていくというコースです。すべての科目が必修で、「漢字の書」「仮名の書」「実用の書」「篆刻・刻字」の4分野を全員共通で学んでいきます。また、実技だけでなく理論の面からも書を学び、書文化や文字文化について知識を深めていきます。

「漢字」「仮名」などの4分野を全員共通の形にしているのはどうしてですか?

高校生の時点で興味のあることに特化してしまうと、その後で伸び悩んでしまうことがあるので、大学以降の学びに引き継いでいけるように幅広く基礎力を築くことを重視しています。たとえば、仮名の書を書きたいと思っても、漢字の基礎的な力がないと伸びていきません。そのため、漢字の基礎をふまえて仮名に取り組んでいく必要があります。3年間通して基礎的な学びを続け、その上で応用的なことにも取り組んでいきます。

書道を通して身についた能力が、卒業後にどんな形で活きるのでしょうか。

書道を通して、ものを見る力や感じる力が身につくと、書道以外の分野でも役立てることができます。物事を注意して見ること。それを分析的にとらえ、どういう価値があるかを考えること。そういうことを、生徒たちは常に行っています。社会と関わっていく上での基礎となる能力を、制作の過程で身につけているということです。一つのことを徹底的に突き詰めて行うことへの社会からの信頼は、とても大きなものです。一つの道を究めようと真剣に取り組んだ経験が、社会に出た時に力になります。

書道コースの生徒はどのような一日を過ごしていますか?

朝は自由錬成という形になっていて、自主的に登校して書く生徒がいます。この時間に来る多くの生徒が7時から始めています。授業時間内は先ほど言ったように共通課題に取り組むので、自分自身の課題に一定の時間をかけて取り組むのは、放課後の部活動の時間になります。部活動は全員参加で週4日、15時45分から18時まで行います。「学」と「芸」の両方があってこその学芸高校ですから、切り替えをきちんと行って書道以外の勉強にも力を入れてほしいと考えています。

「書道が好き」という気持ちが原動力に。

毎日書道に打ち込むのは大変なことだと思いますが、何が生徒の支えになるのでしょうか?

「書道が好き」という気持ちが生徒の原動力になっていると思います。たとえば全国高等学校総合文化祭に出品するような大きな作品になると、一枚書くのに10時間以上かかるものもあります。一度の出品のために時間をかけ、何枚も数を重ねて練習する。私たち教師の目から見て「本当によくがんばるな」というくらい努力しないと、あのような作品を完成させることはできません。その努力を支えているのが、「書道が好き」という気持ちです。そしてもう一つの原動力は、自分自身に対する期待ではないでしょうか。「自分はもっとできるはずだ」「もっとこういうものが書けるはずだ」と突っ込んでいくような気持ちで、自分の書に向き合っているのだと思います。

書道の専門コースで学ぶ意義を教えてください。
たとえば普通科に通いながら部活動として書道に取り組む場合とは何が違うのでしょうか。

先ほどお伝えしたように、理論的な背景を含めて芸術としての書を深く学べることが、書道専門のコースならではの特徴だと思います。併せて大きいのは、学ぶ環境の違いです。生徒たちは、「自分の好きなことを追求していくんだ」という覚悟を持って書道に取り組んでいます。当然のことながら、部活動だけで書道をしている生徒には負けたくないと思っているんですね。その集大成となるのが、3年生の作品展です。終わった後、一人ひとりが作品展の感想を述べるのですが、その時は全員泣いています。自分たちが覚悟を持って書道に取り組んできたという思いや、それに付き合ってくれた学校に対する思い、我々教員への思いを話してくれます。

先生方にとっても作品展の時の達成感は大きいですか?

そうですね。3年間の過程をすべて見ているので、私たちが感極まる場面もあります。書道が好きという気持ちだけで入ってきた生徒が、期待を大きく超えて成長した姿を見せてくれることがあります。会場で誇らしげに胸を張って自分の作品を説明する姿を見ると、胸に迫るものがありますね。そういう生徒たちを受け入れることへの責任は私たちも常に感じていますし、その先の進路にもつなげたいと思っています。

「自分の書」というものを打ち立てるために。

増田先生ご自身の経歴も教えてください。
本格的に書道に取り組み始めたのはいつですか?

高校時代です。高校の書道の先生がとても熱心な方で、「大学でも書道を専門的に学べるところがある」と進学を薦めてくださいました。高校時代までの私は、野球や陸上などのスポーツをやっても途中でやめてしまい、一つのことが長く続きませんでした。だから書道は突き詰めてやってみたいと思い、本格的に学ぶことを志しました。

大学進学後に、自分の成長を実感した場面はありますか?

一番の目覚めは、大学3年生の時です。「書が分かってきたかな」と思える、入り口に立った時がありました。筆を持って一画一画書いていくと線の軌跡になっていくのですが、それぞれの線にはベクトル、力の向きがあります。その線が集まった時に、集合体としてどう存在するのか。そういうことをこの時期に考え始めました。余白である白の奥行を感じ、立体的につかむことができた時、少し書が分かったと思えました。

当時指導を受けていた先生からはどのようなことを教わりましたか?

大学時代の先生からは、「自分がどうしたいのか」を考えて制作することや、現代という時代をとらえて表現することを指導していただきました。「守破離」という言葉がありますよね。決められた型を守る段階と、そこから自分で工夫して型を破っていく段階、最後に型を離れて自分独自のものを生み出す段階。
それまでの私は、多くのコンクールに出品して自分の位置を確認するような風土の中で育ってきたのですが、そうした展覧会中心の書道は、どうしても「守」の部分がメインになります。その状態を突破して先に進むには、自分の書というものを打ち立てる必要があります。そういうことの大切さを教わりました。

書に対する考え方やとらえ方というのは、多様なものなのですね。

そうだと思います。ひと口に「美しさ」といっても、さまざまな美しさが存在します。たとえば、「書というのは強くないといけない」ということをよく言われるのですが、果たして本当にそうだろうかと。弱い線で書いたとしても、ギリギリのところで文字が立ち上がってくるような表現も可能なのではないか。私もある時期からそういうことを考えるようになりました。筆というのは古典的な筆記具なのですが、なめらかさや力強さなど、使い方によって実にいろんな表情を出すことができます。書は文学でもありますし、文字そのものが持つリズムや動きを追求していくと、音楽的だと表現することもできる。本当に多様な表現が可能です。白と黒の面積比率や、それに対する筆の置き方、力加減、角度……。実にいろんなことを考えて行うのが、書の世界です。その一端を生徒たちに少しずつでも伝えたいと考えています。書道コースで挑戦したことが、人生の中で自分を切り拓く場に立った時、必ず活用できると思います。

書道について、知らなかった世界がたくさんあることが分かりました。

書道は「古臭い世界」と思われがちですし、ただの習い事と思われがちな面もあります。しかし、私たちは壁面芸術として書道に取り組み、現代的な世界観を表現することをめざしています。単色の黒を使い、線の深さや速度などを考え、現代の時代に向き合いながら芸術としてさまざまなことに挑戦する。そんな書道がとてもカッコいいものだということを、多くの人に知ってもらえることを願っています。また、本校の書道コースは書道が好きな人に対して広く間口を開けています。真剣であることはもちろんですが、その真剣さを楽しみながら取り組んでいることも知ってほしいと思います。